株式譲渡と事業譲渡の会社法上の手続きを比べる
著者・監修 ・ YDAIコンサルティング株式会社 代表
目次
株式譲渡と事業譲渡は、何を譲り渡すかと会社法上の確認手続が異なります。株式譲渡では株式の譲渡制限と承認機関、事業譲渡では対象事業の範囲と株主総会の承認を先に確かめます。どちらが有利かは、手続の一覧だけでは決められません。
「会社の一部だけを譲るなら株主総会は要らないのか」と疑問に思うことがあります。譲る資産の規模や定款の定めによって検討すべき条件が違うため、「一部」という言葉だけでは結論が出ません。
本記事では株式会社の売り手を想定し、会社法の譲渡制限株式と事業譲渡の規定を読み分けます。個別の取引方法、税負担、契約条項の適否は、対象事業の資料をもとに弁護士と税理士へ確認します。
本記事で分かること
- 譲渡制限株式の承認請求と決定機関
- 事業譲渡の範囲と株主総会の承認
- 契約・許認可を別に洗い出す理由
結論:株式譲渡と事業譲渡の手続の違い(早見表)
株式譲渡と事業譲渡の違いとは、株式を移すか事業を対象に契約するかによって確認する手続が分かれることです。以下は会社法の2026年8月12日施行版を2026年10月21日に確認した一般的な入口です。会社を引き継ぐ方法の全体像は承継の選択肢でも整理しています。
| 観点 | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 根拠・確認日 |
|---|---|---|---|
| 対象 | 株主の持つ株式 | 契約で定める事業 | 会社法第127条、第467条・2026年10月21日 |
| 承認の入口 | 譲渡制限株式の請求と決定 | 事業の全部・重要な一部などの承認 | 同法第136条〜第139条、第467条・同日 |
| 定款の役割 | 決定機関の別段の定め | 一部譲渡の割合などの定め | 同法第139条、第467条・同日 |
| 別に見るもの | 保証、契約、許認可 | 移す資産、契約、許認可 | 中小M&Aガイドライン第3版・同日 |
表は両方法の優劣を示しません。現状の株主、定款、事業ごとの契約をそろえ、譲渡したい範囲を弁護士に伝えることが先です。
譲渡制限株式の承認を確かめる
譲渡制限の有無と承認機関は定款まで見て確認します。非上場会社だから必ず取締役会の承認という結論にはなりません。
| 確認する段階 | 主な書類 | 条文上の入口 |
|---|---|---|
| 現在の株主と株式 | 株主名簿 | 会社法第127条 |
| 承認の請求 | 請求内容、取得者の情報 | 同法第136条、第137条 |
| 承認の決定・通知 | 定款、議事録、通知 | 同法第139条 |
株主からの請求と取得者からの請求

会社法第127条は株主が株式を譲渡できることを定めます。譲渡制限株式では、譲り渡そうとする株主からの承認請求が第136条、取得した人からの請求が第137条に置かれています。売り手は誰が現在の株主かを株主名簿で確認し、譲渡予定の株式と取得者を混ぜずに資料化します。条文は2026年8月12日施行版を2026年10月21日に確認しました。
取得者からの請求には名簿上の株主との共同請求に関する規定もあります。売り手が「相手が決まれば自動で名義が変わる」と考えると、承認請求や通知の手順を見落とします。実際の請求主体と提出書類は取引の進み方で変わるため、株主名簿、定款、検討中の契約案を弁護士に示して確認します。
株主名簿に記載された株主と、実際に説明を受けている人が一致しているかも確認します。委任や共同請求に関わる事情があれば、書面の名義から先に確かめることで、譲渡予定だけが先走ることを避けられます。
株式の数だけでなく、株主名簿と定款をいつ確認したかを記録します。検討が長引く間に株主の状況が変わる可能性もあるため、古い資料に基づく説明を契約前の現在の状態として使わないようにします。
決定機関と通知の流れ

会社法第139条第1項は譲渡等の承認を株主総会の決議で決め、取締役会設置会社では取締役会の決議と定めます。ただし定款に別段の定めがある場合はその限りでないため、機関を一律に断定できません。同条第2項には決定内容の通知が置かれています(2026年8月12日施行版、2026年10月21日確認)。
売り手は、定款に記された譲渡制限の内容、会社の機関設計、株主と取締役の構成を別々に並べます。議事録があっても、対象株式や取得者が資料と一致しているかを確かめる必要があります。どの機関でどの議案を扱うかは個別の法的判断となるため、決議前に弁護士へ相談します。
承認の通知をいつ誰が受け取るかを整理すると、決議と相手方への説明の順序が見えます。定款の写しと会社の機関を示す資料を並べ、支援者の説明に使われた前提が現在の状態と同じか確かめます。
事業譲渡の範囲と決議を確かめる
事業の全部と重要な一部には異なる確認点があります。売り手が譲りたい設備だけを数えるのではなく、事業として移す資産と会社全体の規模を見ます。
対象事業と資産の切り分け

事業譲渡を考える際は、契約で対象とする事業を言葉にし、機械、在庫、顧客との契約などの所在を一覧にします。事業譲渡契約書の対象欄と、会社に残る資産・債務の一覧を対応させると、後で「事業の一部」と呼ぶ範囲が明確になります。会社法第467条は事業の全部や重要な一部の譲渡などを区分して定めています(2026年8月12日施行版、2026年10月21日確認)。
会社全体の株式を移す場合と違い、事業の範囲を定める書面には含めないものも現れます。個々の契約や許認可をどう扱うかは対象ごとに確認が必要です。売り手は希望する範囲を先に整理し、どの取引方法を選ぶかや契約の当否は弁護士と税理士に相談します。
対象資産の一覧には、会社所有と経営者個人所有を区別する欄を設けます。契約上の譲渡対象に入れたいものと、現場で使っているだけのものを混ぜると、後の調査で説明が難しくなるためです。
承認の請求を考える時点で、取得者に示した条件も記録します。後の通知や契約書の内容と食い違いがないかを確認するためです。
株主総会承認が問題になる場合

会社法第467条第1項は、事業の全部と重要な一部の譲渡などについて株主総会の承認を定めます。重要な一部の区分には、譲り渡す資産の帳簿価額と総資産額との割合が関わり、定款で割合を引き下げることもできます。ただし割合だけを見て「承認不要」と結論づけず、第468条の例外や対象取引の区分も含めて確認します(2026年8月12日施行版、2026年10月21日確認)。
必要な株主総会の決議は会社法第309条第2項第11号の章単位の規定にもつながります。同号が第467条の番号を直接挙げているわけではありません。売り手は対象資産の帳簿価額、総資産額、定款、契約案をそろえ、承認の要否と決議の方法を弁護士に確認します。
割合を考える際も、売り手が自分で数字だけを当てはめて決議の要否を決定することは避けます。基準となる決算書の時点、対象資産の帳簿価額、定款の定めを合わせて、弁護士へ論点を示します。
契約と許認可を別に洗い出す
会社法上の承認と各契約の引継ぎは別の論点です。譲渡方法が決まったように見えても、顧客との契約や業種の許認可がどうなるかは資料を見て確かめます。
顧客・仕入先との契約一覧

売り手は主要顧客と仕入先の契約を一覧にし、契約当事者、対象事業、継続中の義務を記します。同じ取引先でも複数の契約があれば、どれを引き継ぐ話なのかを分けます。借入契約書に事業譲渡や株式の移動に関する通知・同意の定めがある可能性もあるため、金融機関へ相談する前に書面の所在を確かめます。
契約を移す手続や相手方の同意が必要かどうかは、その契約の内容と取引の形に依存します。ここで「株式譲渡なら全契約が問題なく継続する」と断定することはできません。譲渡範囲と相手方への説明時期を一覧にし、通知や同意の要否を弁護士に確認します。
契約一覧に未履行の注文と相手方への通知の記録を添えると、移す対象と残す義務を分けて説明できます。顧客名が含まれる資料の開示は秘密保持の範囲も確認し、契約の検討と情報開示を同時に進めません。
許認可と人員の引継ぎ論点
許認可の名称、名義人、所管庁、更新に関わる資料を表にすると、事業の引継ぎと並行して確認すべき事項が見えます。従業員についても所属、役割、引継ぎたい業務を整理します。事業譲渡契約書に対象として記しただけで、各制度上の手続が完了すると考えることはできません。
許認可の承継可否や従業員の法的な扱いは業種と取引方法で異なります。所管庁、労務を扱う専門家、弁護士に対象資料を示して確認します。事業承継・引継ぎ支援センターは事業承継全般の相談対応などを原則無料で行うと中小企業庁「事業承継の支援策」に記載されています(2026年10月21日確認)。
許認可と人員の表では、名称だけでなく名義と現在の担当者を記録します。株式や事業の譲渡方法を決める前から所管庁に質問できる事項を洗い出し、専門家に渡す資料の不足を明らかにします。
譲渡方法とは別に、ガイドライン第3版の支援者への説明と登録制度の確認方法も参照できます。
まとめ
株式譲渡では株主と定款を見て譲渡制限株式の承認を確かめ、事業譲渡では対象事業と資産を洗い出して株主総会の手続を確認します。契約や許認可は別の一覧にして、どこまで引き継ぐのかを明確にします。まず株主名簿と定款、事業譲渡の対象候補を書き出してください。
関連する制度は法令・制度の記事一覧で、承継方法の全体像は最初の選択肢の記事で確認できます。
よくある質問
- Q. 株式譲渡では取締役会の承認が必ず要りますか
- 取締役会の承認が必ず要るわけではありません。会社法第139条第1項は譲渡制限株式の承認機関を定めますが、会社の機関設計と定款の別段の定めによって扱いが変わります(2026年8月12日施行版、2026年10月21日確認)。株主名簿と定款をそろえ、対象となる株式についてどの機関が決めるかを弁護士に確認してください。
- Q. 事業譲渡は会社の一部だけでも株主総会で決めますか
- 一部の譲渡でも株主総会の決議が必要になる場合があります。会社法第467条第1項は事業の重要な一部の譲渡を含めて区分し、同法第468条は承認を要しない場合を定めています(2026年8月12日施行版、2026年10月21日確認)。譲渡資産の帳簿価額と総資産額、定款、対象事業を示し、弁護士に確認してください。
- Q. どちらの方法が税負担を減らせますか
- 株式譲渡と事業譲渡のどちらが税負担を減らせるかは、一般的な手続の比較だけでは決められません。譲渡の対象、契約当事者、株主と会社の状況によって税務上の論点が異なります。個別の税額計算や方法の選択は税理士に資料を示して相談し、法的な手続と契約については弁護士に確認してください。
出典
本記事の出典は に内容を確認しています。
- 1.会社法(2026年8月12日施行版)(laws.e-gov.go.jp)
- 2.中小M&Aガイドライン(第3版)(chusho.meti.go.jp)
- 3.事業承継の支援策(chusho.meti.go.jp)